2019年2月22日金曜日

『繋がりの詩学ー近代アメリカの知的独立と〈知のコミュニティ〉の形成』

*本文は日本ソロー学会会員メーリングリストに寄稿した文章を転載しています。

つい先ごろ刊行された19世紀アメリカ文学をめぐる論集、倉橋洋子,  髙尾直知, 竹野富美子, 城戸光世編著『繋がりの詩学ー近代アメリカの知的独立と〈知のコミュニティ〉の形成』(彩流社, 2019年2月)を以下、簡単にご紹介します。

本書は近年めざましい成果をあげている文学研究のグローバル化の延長線上に位置づけられる。その文脈のなかで本書のオリジナルは、編者のひとり竹野富美子氏が「まえがき」で説明するとおり、<知的コミュニティ>の越境である。コミュニティの相互交渉が人の思考の枠組みにいかなる影響をあたえるのかーこの問いに各論がそれぞれの観点から応答しており、一冊の論集としても一貫したつくりとなっている。

本書には多くの本学会員が寄稿しており、読みどころが豊富にある。ここではソローへの論及のある2篇に触れておきたい。竹野論文は「マサチューセッツの博物誌」を『マサチューセッツの報告書』に対するアンビヴァレントな態度を両者の影響関係を比較検討することを通じて、ネイチャーライターとしてのソローを評価する。

他方、貞廣論文は、世紀末イギリスにおけるソロー作品の出版事情をきわめて精緻な実証的アプローチによって分析し、社会主義者によって進められたソロー受容のありかたが「社会改革者としての作家像を作り上げるのに貢献した」と指摘している(335)。

アメリカン・ルネサンスは、アメリカの知的独立宣言と呼ばれる。だが、じつは作家たちのスタイルや作家像をつくりあげたのは、越境的な<知的コミュニティ>の流動性であった。この指摘は、すでに文学研究においては不可欠なものになりつつあるが、本書の美点は、各論が歴史的な事実と文学テクストとの往還によって実像と虚像とを見きわめようとする方法論ー実証的アプローチと認識論的なアプローチの邂逅というべき方法論ーにある。トランスナショナルな研究の枠組みが総論的に成熟したいま、各論の立証の精度がいよいよ研ぎ澄まされてきた。

その到達点を本書は示している。

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