2018年4月24日火曜日

世界は矛盾に満ちている 人間は物語で生きている

先週の土曜は上西哲雄先生の御講演をうかがいに仙台は東北大学片平キャンパスへ。上西先生の語り口は、それこそあるべきテクストとして提示されていた3条件そのもので、「おもしろく」「独自のもので」「腑に落ちる」ものであった。

まず「矛盾に満ちた」ものとしての小説をどのように論じるか、という井出達郎さんのすばらしいイントロを受けて、上西先生は、とにかく気づいた点をできるだけたくさん挙げて共有するというワークショップを提案する(このメソッドを論文化したのがこれ)。小説は矛盾にみちているーーこのことを前提として、「物語」を論者独自の観点から語り直すのが「論文」。小説も論文もスリリングな「物語」でなくてはならない。

そしてここからは僕なりの理解だが、小説と論文のあいだに違いがあるとすれば、小説が矛盾を矛盾のまま提示されているのに対し、論文は、できるかぎり矛盾を(排除するというよりも)統合的な形で説明する=物語るものである。(言い換えれば、小説は矛盾を抱え込む世界に近く、論文は矛盾を排除した世界に近い。この点で、小説のほうがリアルで論文のほうが虚構なのである、ともいえそうだ)

節々に文学とはなにかという問いや自己と社会との葛藤など、大切な問いに触れるものが散りばめられていて、本当はそれらを文章にして記憶しておきたいのだが、そういう話は、やはり先生の口から発せられる言葉をじかに耳で聴いていたい。ここでは、技術的な観点をまとめておきたい。つねに論文書きに悩みをかかえている僕には、目からウロコが落ちすぎるお話であった。


論文の構造は、推理小説と同じ。いい短編小説を読もう! 


以上の図式は先生の話を、私の中でかなり簡素化してしまっているのだが、大筋は間違ってはいないかとも思う。より詳細な説明は御講演の中でも言及された下記の論文を参照。

英米文学系学会におけるワークショップ方式による共同研究の実践記録 : 日本アメリカ文学会北海道支部「第4回若手研究者のためのワークショップ」の準備過程→PDF

超保守的文学研究教育者が映画を教える方法 (中・四国アメリカ文学会第43回大会シンポジウム アメリカ文学・文化と映画を教える)→PDF無し


さらに下記のイベントの決定していますので、ご関心のある方はぜひ。

F. スコット・フィッツジェラルド協会2018年度 第1回東京研究会
 日時:2018年6月9日(土)
会場:明治大学駿河台キャンパス グローバルフロント403
12:40 開場
13:00 開会  
総合司会:フェアバンクス香織(文京学院大学)
13:10  ワーク・イン・プログレス
 発題:千代田夏夫(鹿児島大学)
発表テーマ: F. スコット・フィッツジェラルドにおける、黒さとケルト/アイルランド(仮)
14:45-15:15 総括討論
15:30-16:30 講演(科研研究会:若手研究(B)16K16791)
  司会:山本洋平(明治大学)
  講師:上西哲雄(東京工業大学名誉教授)
  演題:「文学の教え方/研究の仕方」
16:30-17:00 総合討論
17:10 閉会
17:30-懇親会(会場未定:会費は6000円程度の予定)

とても濃密な2時間を過ごしたのち、牛タン屋善次郎へ。せっかくなので贅沢に3000円の上タンを注文。美味。仙台最高。翌朝、羽生結弦のパレードから逃れるようにして仙台市内を後にした。